UI/UXよりもまず、ビジネスで重要なデータの価値を理解しよう
UI(ユーザーインターフェース)、UX(ユーザーエクスペリエンス)って言葉、格好良いですよね。似たような言葉でIA(インフォメーションアーキテクチャ)も格好良いですね。Webサービスの仕事をしていると良く出てくる言葉です。 そしてWebサービスを作ってて筆者的に一番おもしろいのはUIを設計しているときです。
でもちょっと待ってください。
その前にやることがあります。そもそもどんなデータが必要か、重要かを考えなければいけません。
ユーザにどんなデータを見せるか、ユーザからどんなデータを入力してもらうか、運営側はどんなデータを入れるべきか、どんなデータがマッチング出来るか、紐づけられるか、自動化できるか、計測できるか、、、
大袈裟じゃなく、データ設計次第でビジネスのスケールの速度は段違いです。メモの固まりではスケールするサービスに昇華させることが出来ません。 なぜなら後からUIを変えることより、データベースの構造を変える方が圧倒的に大変だからです。
筆者はリニューアル案件で残念なデータベースにたくさん出会ってきましたが、これはエンジニアがビジネスの理解が足りないのが一番の原因だと思っています。
エンジニアは技術だけでもカバーするのは大変なのに、ビジネスの領域までカバーするのはさらに大変ですが、筆者はもうその時代になってしまったと思います。
IT技術の発展の早さは凄まじく、Webエンジニアは便利なフレームワークやツールで効率良く開発出来るようになりました。 その代わり現在は、ビジネスの理解が強く求められていると思います。
今回はその辺を深掘りしたいと思います。
データ設計に必要なスキル
データ設計に必要なスキルというのは、ひとことで言うとエンジニアリングのスキルとビジネス・マーケティングの理解です。
広すぎですね!
でもそうとしか言えません。
筆者は通販システムを数多く開発してきたので、通販を例にします。
例えば商品データを設計する際、こんなことを考えます。
- ユーザに購入したいと思わせるための情報(アパレルの場合なら「ささげ」(撮影、採寸、原稿))
- ユーザに探しやすくするためのカテゴリや商品のグルーピング
- 仕入れなどバックオフィス業務をまわすために必要な情報
- 会計で必要な情報
- 物流で必要な情報
- カスタマーサポートで必要な情報
- 法的に明記しないといけない情報
- 楽天やYahooショッピングなど、マーケットプレイスに出品するための情報
- SEOに必要な情報
- データフィード広告など広告に必要な情報
- あとで分析するために必要な情報、MD的な観点
もちろん一人で全部把握しているわけではないので、関係者からヒアリングして設計をしていきます。
さらに加えて、エンジニアリング的な知識、制約も把握しておかなくてはいけません。 データ量が大きければ、データベースを非正規化をしたり、検索エンジンを入れたりするなど考慮が必要になってきます。
また、通販システムは注文データ、顧客データ、在庫データなど他にもたくさんのテーブルがあります。 複数のテーブルのデータをうまくマッチングさせることが出来れば、ユーザにレコメンドする機能、通知する機能、ユーザを掘り起こす機能、運営者が楽になる自動化の仕組みなど、サービスをスケールさせるための機能を開発することができます。
データに価値が生まれるとき、大体の場合、複数のデータを組み合わせることで起こります。
例えば筆者が通販で効果を上げた事例だと、商品のブランドのデータ、広告のデータ、顧客のLTV(1顧客あたりの消費金額の合計)のデータを掛け合わせることにより、ブランドワードのCPA(1注文あたりにかかった広告費)で判断していたリスティング広告の評価方法を、LTVの高いブランドで評価することにより、広告のパフォーマンスを上げた経験があります。
データはクロスさせると価値が出る、これだけは覚えて帰ってください!
(このあたりはいずれ深堀したい)
ちょっと話がズレますが、エンジニアが一番、その会社のビジネスを理解しているケースって多々ありますよね。 ただそういう会社に限ってサービスがあまりスケールしていないと感じます。 まー統計的な根拠があるわけでなく、あくまでも筆者の経験論です。 ただサービスがスケールしない理由に、そのエンジニアに頼りきっている、そのエンジニアをボトルネックにしてしまった、というのは原因としてあると思っています。
ビジネスサイドもデータの価値というのを理解すれば、良い化学反応が起きるのになー、惜しいなー、惜しいなー
データ設計を邪魔するもの
筆者がデータ設計をするときに一番困るのは「私は関係ない」という考えです。
先ほどの商品の例でもいろんな情報を集約してデータを設計しているのがわかると思いますが、関係者の中には「私にその情報は関係無いからその入力は必要無い」、みたいな意見は良く耳にします。
もちろん運用が楽になるように設計をすべきですが、必要か、必要でないかを判断するのは、全体を把握していなければ出来ないはずです。 しかし日本の組織の場合、役職やパワーバランスで決まってしまうケースも多くないですか?
ただ筆者もそこそこベテランです。
うまくデータ設計を進めるコツがあります。
要件定義の最初に伝える言葉があります。
情報が価値となり、サービスがスケールするためには下記が必要です。
- 検索できる、発見できる
- マッチングできる、紐づけられる
- 集計できる
単なるメモでこれは出来ません。あたなはそれで楽かもしれないが、タイトルに入れておけば大丈夫!じゃないんです。
メモじゃ人間が把握しておかなければいけないし、人間が把握できないものは動きません。
逆に様々なところでこれが出来れば、自動化出来る範囲が広がり、サービスもスケールすることが出来るでしょう。
例えば昨今流行りのMA(マーケティングオートメーション)もこれが出来ることが大前提です。
誰の視点でデータを設計すれば良いか?一番増やしたいのは顧客ですよね?
顧客を増やすためのデータ、顧客が増えても楽なデータベースを一緒に考えませんか?
なかなかこれを否定することは難しいですよね。
最初に宣言しておけば、協力してくれる人も増えるかと思います。
さらに具体的にメリットを提示できると、もっと良いですね。
- こんなデータを入れてくれれば、こんな軸で探しやすくなり、ユーザビリティだけじゃなく、SEO的にもいいよ!
- このデータを紐づけられれば、ユーザにアラートを出せてアクティブ率をあげられるよ!
最後に
実はこのテーマを書きたかったきっかけがありまして。
この記事はドワンゴの川上量生氏と、ただいま炎上中の伊藤直也氏の対談記事なんですけど、
この記事の中で川上氏は、
「僕が嫌いな言葉でさ、UIとかUXとかあるけど、どうでもいいのよ。UXとか言い出すもんだから、間違ってクリエイティブな方向に行くんであってさ。」
「WEBのエンジニアってクリエイターではなく、工業デザインに近い」
「デザイナーっていうのは、サーバとかのアーキテクチャをわかってない人間がやるべきじゃないと思う。まぁ、サーバと言わないまでも、クライアントのレベルっていうか」
この意見に筆者も同意です!
ちょっと簡単にUIとかUXって言葉を使いすぎじゃないですかね、昨今。 まー確かに誰でも参加できるテーマと言ってもいいかもしれません。
筆者は過去に「UXを強化する通販サイトのリニューアル」の請負の仕事を行ったことがあります。 結果その通販サイトはSEO的に多くのインデックスを失い、よってまたサイトのリニューアルを実施しました。 そのプロジェクトにやはりいたんですよ、UI/UXのことばかりで、システムやマーケティングの知識が皆無な担当者が。
システムの仕様というのは様々な要因のトレードオフで決まってきます。商材、業務、データベース、マーケティング、組織、コスト、、、UIもその例に漏れません。仕様を決める人間は全体を把握した上で決めなければいけません。全体を把握していない、設計出来ない人間がUIの仕様を決めてしまうのは危険しかありません。
UXが優れていると言えば、Apple製品が思い出されます。 例えばiPhoneは電話を再発明しました。単純に製品が使いやすいというだけでなく、アプリとそれを流通させるプラットフォームは大きな市場を作りました。 iPhoneを作ったジョブスはデザインに深い造詣がある前に、ソフトウェアとか工業製品とか通信とかプラットフォームとか、多くのことを把握しています。ジョブスはAppleに復帰する前も、OSを開発している会社をAppleに売却したぐらいです。何が言いたいかと言うと、優れたUXを作るためには様々な知識が必要なんです。
特にデザイナーとかWebディレクターと呼ばれる人たちが多いんですが、簡単にUI/UX言い過ぎちゃうところがあります。もっと裏側というか背景を汲んでから考えて欲しいなと。 エンジニアもビジネスに対する深い理解が必要だと先に述べましたが、デザイナーもそういう時代になったかもしれませんね。